Azumi Setodaは旧堀内邸時代の主の嗜好、主を受け継いだ窪田氏の嗜好が掛け合わさり、ひとつの形を成しています。丸ごと刷新をしたのではなく、この地に生まれ育った人、魅力を感じ外から集まった人が手を繋ぐことで新たな幕を開けたのです。時代を跨ぎ、様々なものがもち込まれたことで生まれた多様性は、かつて日本全国に広がり多くの属性をもった安曇族のようとも言えそうです。
夜明けの商店街。静寂の中、以前見かけられたのは、始発のフェリーに向かう人びと、学校へと向かう子供たちの姿でした。それが最近、段々と変わってきています。加わったのは、Azumiと銭湯があるyubuneの賑わい。朝の目覚めを知らせる鳥の鳴き声、こだま。それと共にこの地域で生まれ育った榮田さんがyubuneへと向かっていきます。朝風呂の時間のためにヒノキの桶を床に並べ、京都の染織家・吉岡更紗さんが藍で染めた暖簾を表に吊るす。yubuneにお客様を迎える準備が整った合図です。
Azumiでお客様をお出迎えする時間の少し前、瀬戸田の太陽の光が雲によって淡く拡散され、辺りを照らし出したくらいの時刻。Azumiの廊下やしおまち商店街にて、施設を管理している石井さんの姿を見つけることができます。今日の彼は、中庭にある桜の木の麓に生えている苔の雑草を摘んでいます。その雑草はちょうど摘まめるくらいの短さ。その見かけによらず、根っこは頑固で、強く引っ張ると根が切れてしまうため、引っこ抜くには細心の注意が必要です。
Azumiの庭には、堀内邸の頃から植えられている木々や、東屋の庭の熱帯雨林を思わせる現代的な植物など、豊富な種類の植物が育っています。石井さんはそれらの成長を日々、観察しているのです。先の通り、注意を怠ってはならないため、大変な作業のように感じますが、石井さんは「単に毎日同じ作業をしているだけですよ」と笑いながら話します。ですが、彼の抱える袋の中は、雑草でいっぱいになっています。
東屋の“熱帯雨林”をかき分け、庭に足を踏み入れた時、石井さんは今のお仕事に関わるようになった経緯を話してくれました。きっかけは隣の島に住む、石井さんのご友人。瀬戸田にAzumiができることを、その彼が教えてくれたそうです。石井さんは以前、沖縄でダイビングを楽しんだり、日本のあちこちを旅しながら、時に船を運転したりと様々な体験をしてきたそうです。漂流し、辿り着いたのがしまなみ海道。「今となっては、ここが我が家だと思っている」と、石井さんは目を輝かせながら語ります。
銭湯の風呂。日陰の庭の所々に見られる丁寧な手作業。設えを見ると、小さな心遣いの積み重ねによってAzumiが成り立っていることが分かってきます。