かつて瀬戸田港は、日本の交易の拠点として知られていました。瀬戸田に運ばれてきていたのは、日本の各地、近隣諸国で育まれた珍しく豊かな食材たち。食材の坩堝となることで、瀬戸田は大いに賑わっていたのです。そこから何世紀も経った今でも瀬戸田は美味しい食材で溢れており、柑橘類も象徴的な存在になっています。Azumiはそんな食における地域の根、幹に寄り添っています。
朝。農家さんや漁師さんたちが、その日に採れた/獲れたものを運びに来てくれる楽しみな時間帯です。しおまち商店街の脇道にあるAzumiの従業員用出入口。その前に無農薬のレモンを中心に生産しているたてみち屋さんの小さなトラックが停まり、農園にある一本のイチジクの木から採れた、ふっくらとしたイチジクが届けられます。三原からフェリーと共にやってくるのは、出港のほぼ直前に捌かれた新鮮な鶏肉。今治発の船にはキラキラと海水を纏い身体を輝かせるタチウオ、クロハタ、タイ、サザエ、シマアジなどの魚たちが。これらが一挙にAzumiにやってくるわけですから、待ち遠しくて仕方がありません。
食材が厨房に運ばれると、料理長は早速それらをどう調理し、お客様にご提供するかを考え始めます。完熟したイチジクは酵素ドリンクや、朝食のフルーツ用に、鶏肉といくつかの魚は前菜に。そしてメインディッシュは特に大きな魚と、対峙をし、湧き上がってきた料理長の発想によって食材たちは段々と姿を変えていきます。
夕刻。お客様がダイニングエリアに集まり始めます。堀内邸の時代から受け継がれている剥き出しの木が繋がる白く高い、まるで彫刻のように見える天井。その下、中央に鎮座する正方形のテーブルの存在感はアートインスタレーションさながら。この空間自体がAzumiにとって、作品の一種となっているのです。
山田さんをはじめとするサービススタッフはテーブルのそばに立ち、お客様とコミュニケーションを取りながら、一品一品を細かく説明していきます。丁寧に揚げられた小さな魚。それにクミンやフェンネルなどのスパイスが振られ、さらに添えられるのはこの地で採れたどんぐり。メインである大きな魚は、過去に堀内家が収集していたというアジアの大皿に盛りつけられ、餃子用のラー油、酢が入った、中華料理の陶磁器を思わせる複雑な装飾の小皿が組み合わされます。これらの光景は、パフォーマンスを鑑賞している感覚を味わわせてくれるのです。
島での生活は、食材を誰が、どこで作り、どのようにやってくるのかという、食の透明性に対する意識を呼び戻してくれます。かつては当たり前だったこと、つまり原点へと立ち返って頂くことが、Azumiで得られる経験の一部となっています。